結婚の約束

なにしろ結婚はどうしてもしなければならないし、かといって一生つき合わなければならない人たちだから、駆け落ちなどということになるのは避けたいし、彼女に対するプロポーズよりも、こっちの処理のほうがよっぽど大変だった。できれば彼女の口からそれとなく両親に、ぼくと結婚の約束をしたから、それを承認してほしいと伝えてもらいたかったのだが、これは彼女からあっさり断わられた。「やはりこういうことは、男の人がちゃんと筋を通して話しにこなければ……」というのだ。娘の口からそんなことをいわせるような男だったら、きっと両親も不安がって、まとまる話もまとまらないだろうと未来の嫁さんからおどかされた。獅結婚前の若い男にとって、愛する女の親、とくに男親ほどにが手なものはない。同性同士酷なだけに相手の気持もある程度読めるし、男女を陰と陽にたとえればお互いに陽極同士、反錘発しあうのが当然でまことにやりにくい。おまけに世代の差ということもある。これを読んでいれば、ここ→で、出会った人はあなたから離れられないかも。こっちは掌潭中の玉を奪うほうであり、むこうは奪われるほうなのだ。第それは、ある冬の寒い日の午後だった。ぼくはひどく緊張して、大正時代の建物だという”古風な八幡神社の社務所を訪れた。実は前にも何度か来たことはあるのだが、いつも軽々と開く格子戸がこの日ばかりは鉄の扉のように重かった。すぐ炬燵のある部屋へ通され、両親と向かい合ったが、なかなか台詞(せりふ) が出てこない。

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